2020年12月25日(金) 校長講話「2学期終業式」より

 はやぶさ2のチャレンジ

 

 これを見てください。何だかわかりますか。そう「はやぶさ2」です。はやぶさ2がリュウグウに着陸しようとしているところです。へこんだように見えているところは「人工クレーター」です。JAXAが世界で初めて作った人工クレーターです。JAXAはこのクレーターを「おむすびころりんクレーター」と命名しました。近くにあるおにぎりの形をした岩が今にも転がり落ちそうなためだそうです。

 

 今日は、この「はやぶさ2」の「チャレンジ」のお話です。

 

 今月6日午前2時28分、小惑星「リュウグウ」の砂が入っているとみられるカプセルが、オーストラリアの砂漠に届けられました。そのカプセルを、6年間、約52億4千万キロの旅を成功させ地球へ届けてくれた「はやぶさ2」は、休む間もなく地球と火星の間を回る別の小惑星「1998KY26」に向かい、2031年の到着を目指して宇宙の旅を続けています。

 

  はやぶさ2は19年2月の1回目の着陸でリュウグウ表面の砂などの採取に成功しました。そして4月に人工クレーターをつくることにも成功しました。地面の中の方にある砂を集めるためです。ところが2回目の着陸にあたって、JAXA内で大激論が巻き起こりました。JAXAの国中均所長が「砂はもう採れている。リスクを冒してまで2度目の着陸をする必要はない。地球に帰らせよう。」と提案したのです。

 

 理由は大きく二つありました。一つは、リュウグウの表面が予想以上に岩だらけだったことだ。直径100メートルの平坦な場所を探して着陸する計画だったのが、実際に見つかったのは直径6メートル。着陸には、上空20キロから甲子園球場のマウンドに降りられる精度が必要です。富士山2つ分の高さの空の上からビー玉を落として1円玉に命中させるくらいの正確さです。

 

 もう一つは、リュウグウの成分が「お宝過ぎた」ことでした。そもそもはやぶさ2がリュウグウに向かったのは、生命のもとになる物質を多く含んだ「炭素質コンドライト隕石」という隕石と、とっても似ているのがリュウグウだったからです。ところが、はやぶさ2が光センサーで表面を観察したところ、地球上に存在するどの炭素質コンドライト隕石とも一致しない成分であることがわかったのです。1回目の着陸で集めた砂は隕石として地球にまだ降ってきていない物質、初の地球外物質である可能性が高いのです。このまま帰ってきても、素晴らしい成果が得られるのです。2回目の着陸をしなくても、世界中が大成功と言ってくれるでしょう。

 

  でも、はやぶさ2のチームは2回目の着陸をあきらめませんでした。チームは一つひとつの岩の高さや形を正確に測って立体の地図を作りました。そして、はやぶさ2の12個のエンジンの癖も調べてはやぶさ2を動かすプログラムをつくり、何百万回もコンピュータを使って着陸シミュレーションを繰り返して、19年7月11日、クレーター周辺に飛び散った地下物質めがけて2回目の着陸を行い、無事成功させたのです。

 

 はやぶさ2のチャレンジは見事成功しました。しかし、ここで考えてみてください。成功したからよかったのですが、失敗していたらどうするのでしょう。JAXAの国中均所長が「2度目はやめよう。」と提案したことは間違っていたのでしょうか。あの「マイクロ波放電式イオンエンジン」という画期的なはやぶさのエンジンを完成させた、宇宙工学の第一人者である国中所長。誰かのまねではなく、自分の創意工夫による新しい機械を作り、見たことのない新しい世界を切り開くことがモットーだという国中所長。その人がなぜ2度目の着陸を中止するという提案をしたのでしょう。

 

 皆さん、「チャレンジ」とは何でしょう。

 

 今日のお話はここで終わりにします。私も明日からの冬休みの間、考えてみたいと思います。皆さんもはやぶさ2の「チャレンジ」について考えてみてください。それでは、3学期始業式には元気な皆さんを待ってます。