2012年7月26日(木) 1学期終業式でのお話

 

2012年度(平成24年度) 上田市立第四中学校 1学期終業式 2012/07/26


 196名の1年生が入学し、そして全員が一つ上の学年に進級した4月4日、覚えていますか。まだ冬の気配が学校の周りに感じられ、またニュースは春4月になっても消えない日本海側山間地の3mを超える積雪を伝えていました。

 しかし、私たちを囲む自然はいつの間にか様々な色の緑に変わり、やがて梅雨空の下でひっそりとアジサイが咲く時期を迎えました。今まで経験したことのない雨が九州の熊本、大分の地を襲った一方で、私たちの地域は比較的雨の少ない梅雨となりました。そして先週16日には一気に気温が35℃を超え、翌17日には熱い青空が夏本番を思わせ、水しぶきの中、皆さんの元気な声が聞こえてくる季節になりました。

 4ヶ月に亘る1学期が今日で終わりになります。4月から数えて117日、登校日数77日。その間に取り巻く自然は今話したように様々に変化し、その変化は皆さん一人一人の成長の変化と同じ歩みをしているように思えます。この1学期、皆さんが前向きに取り組んだ成果が部活動の成績にも表れ、上小大会、東信大会、県大会での大活躍がそれを証明しています。サッカー部、吹奏楽部、合唱部の皆さんが次の大会を目指し、また美術部の皆さんが新しい挑戦を始め、そして多くの部で新人戦に向け新チームがスタートしたことに、皆さんが四中の伝統を受け継ぎ、より良く前進している姿として大変喜ばしく思います。

 そして、今、こうして皆さんの顔を見ながら、この1学期、四中全校の合言葉「優しさ」「豊かさ」「たくましさ」をそれぞれの心と体に育みながら成長してきていることを感じ、なによりうれしく思います。

 今日は、合言葉のなかの「豊かさ」に係わることをお話ししたいと思います。さて私たちが学習するのは、豊かに生きるためであると言うことができます。そのためにも、今までに学校や社会生活で学んだ知識を基礎にして、自然や社会、芸術や文化、技術、スポーツや健康そして人の生き方について様々な学習を体験し、自分が生きる世界をもっともっと知って欲しいと思います。世界は実に広く豊かで不思議で面白いものです。

 さて、1学期の結びに私たちが生きる世界のもつ豊かさや面白さについて、あるモノの歴史を通して、紹介したいと思います。あるモノとは、この「付箋」のことです。ポスト・イット(ノート)という呼ばれ方もしますが、この文房具の一つである付箋の話です。使い方は多くの人が知っていると思いますが、メモやちょっとした連絡内容を記入し、目立つ場所に貼り付けておくことができるものです。使い方は工夫次第で広がりますが、例えば本を読んで重要だと思えるページに貼り付け、後で確認するために使うことができます。古くからこの役目は、紙切れやしおりが果たしてきましたが、付箋が発明されたことにより、その使い道が爆発的に広がりました。付箋の一番の便利さは、紙の一部に接着剤(のり)が着いていることです。しかも、簡単に貼れることができそして簡単に剥がすことができる接着剤で、本のページから剥がしても紙が破れない特色をもっています。

 この何度も貼ることのでき、取り外しがきく付箋が発明されたのは、今から40年ほど前です。しかし、この付箋が発明されるまでに、とても興味深い歴史があったことを皆さんに伝えたいと思います。

 付箋を発明したのはアメリカ合衆国のミネソタ州にある3Mという会社です。金属の包丁や刃物の切れを良くする砥石を作る会社でした。付箋からはまったく想像できないモノを造っていた会社です。ちなみにミネソタ州はアメリカの北部にある州で、英語科のアン先生の生まれ故郷です。

 さてこの会社は今から110年前に砥石を作り始めましたが、うまくいかず、砥石の技術を活かし、すぐに紙ヤスリを作る会社として再出発しました。紙ヤスリは技術の授業で使ったことがあるので知っていると思いますが、砂粒を接着剤(のり)を使って紙に貼り付けたモノで、木材や金属を磨くときに使います。この会社は紙ヤスリを製造するうちに、売り上げを伸ばすには砂粒をむらなく均等に紙に貼り付けるかが鍵であることに気づきました。そこで平均して砂粒が紙に張り付く接着剤(のり)の開発にも取り組むようになりました。

 丁度その頃、アメリカは自動車産業が発展し始めた頃でした。いまから90年前です。たくさんの自動車が生産され、この会社には、車の車体に色を塗る仕事が持ち込まれました。紙ヤスリの会社への注文としては少し変に感じるかも知れませんが、色を塗る前に車の表面を紙ヤスリで磨く作業が必要で、この会社が選ばれました。さらに車体に二つ以上の色を塗る仕事も舞い込みました。作業をする従業員達は、今までの経験を生かし研究を続け、紙以外のモノにも接着剤を付ける技術を開発し、簡単に剥がすことのできる接着剤(のり)を作りました。それをテープに塗り、自動車の車体に二つの色を塗るときに、最初に塗った色のうえに接着剤の着いたテープを貼り(マスキングして)、もう一つの色を塗ったときその色が隣りの色に着かない工夫をしていきました。最後に車体のテープを剥がし塗装は完了します。これは他の会社ではできない技術でした。

 最初は砥石や紙ヤスリを作ることからスタートした会社が、砂粒を紙に貼り付けるために従業員の努力と工夫によって接着剤(のり)の開発に取り組み、その技術を基に、やがて様々な製品を生み出してゆきました。その一つが先程紹介した付箋です。

 それほど接着力は強くなく簡単に剥がすことがでる。しかも、本を傷めない。しかし、すぐに剥がれることがなく長い間、紙などにくっついている。この不思議な接着剤の発明と改良によって、ほんの小さな商品である付箋が世界中で人気者になりました。しおりや紙切れではできないことを付箋は可能にしてくれたからです。いつまでもくっついていて、しかも剥がし易いことです。とても便利な文房具です。付箋は今では世界各地で使われ、日本人用には、日本語の縦書きに合わせた細長い型まで作られています。

 今日は、私たちが生きる世界のもつ豊かさや面白さについて付箋という小さな文房具を通して話をしました。この1学期に経験し手に入れた知識や技能を、是非皆さんが生きる世界のもつ豊かさと不思議さと面白さの発見に生かしてもらいたいと思います。豊かな夏休みを送って下さい。そして優しく、逞しく、二学期が始まることを期待します。